シャトー・ビブリーンは、レバノンのワインメーカーです。首都ベイルートの北東、山岳レバノン県のワタ・エル・ジョーズという小さな村にあります。村の名前はアラビア語で「くるみの村」を意味し、標高1,300mを越え、冬には雪に覆われる土地です。
現在のオーナーであるジョゼフ・アビ・ガネム氏の父は、40年以上勤めたワインメーカーを退職し、趣味として家庭でワイン作りを始めました。1996年のことでした。
子供の頃から父を手伝ってきたジョゼフ氏は、次第にこの仕事に愛着が沸き、やがて父の小さなワイナリーを継いで大きくしたいと決意します。彼はまずレバノン国内のワインメーカーで訓練を積み、その後フランスに渡ってボルドー大学で醸造学を修了し、フランスやチリでの経験を経てレバノンに帰国。2011年に父のワイナリーを継ぎ、2012年より正式に操業を始めました。
レバノンでは、カベルネ・ソーヴィニヨンとシラーを主軸にした、樽熟成のフルボディがよく見られます。しかし、ジョゼフ氏は、レバノン土着の白ワイン用品種であるメルワや、南仏品種のサンソーやカリニャンの可能性に早くから着目していました。ワイナリー周囲の自社畑ではメルワを栽培しており、赤ワイン用の品種は、レバノンの主要産地であるベカー高原の契約農家に栽培を委託し、ジョゼフ氏自身が指示しています。
発酵は自然酵母に任せ、添加物の使用を最小限にとどめながらも、木樽、ステンレスタンク、コンクリートタンクを駆使し、自然の風味を残しつつ親しみやすいワイン作りを追求しています。
「ビブリーン」とは、フェニキア人が世界で最初につけたワインのブランド名。フェニキアの都市遺跡であるビブロスに関連すると思われます。祖先であるフェニキア人に敬意を表し、ワインのラベルには、ガレー船やフェニキア文字が描かれています。現在のレバノンでの主流とは一線を画した醸造哲学は、レバノンワインの原点を模索していると言えそうです。