モースル

モースルは古代より栄えたイラク第2の都市です。中央にはチグリス川が流れ、東岸には古代アッシリアの都であったニネヴェの遺跡、西岸の旧市街には歴史的な建築物が残り、5本の橋が東西を結んでいます。モースル市内はスンニ派イスラム教徒のアラブ人が多数派ですが、周辺地域は民族的・宗教的に極めて多様で、生きた博物館とも言えます。

長らく治安の不安定な状況が続く中、2014年には過激派組織ISの襲来を受け、3年以上にわたりその支配下に置かれました。奪還作戦は熾烈を極め、ISが早期に退却した東部の被害は比較的軽微だったものの、籠城線となった西岸の旧市街は徹底的に破壊され、多大なる犠牲を生みました。

現在は治安も回復し、ユネスコや諸外国の主導により、豊富な観光資源を生かし、着実に復興への道を歩んでいます。

チグリス川に架かる橋 (2023年10月)

西岸

チグリス川の西岸には迷路のような旧市街があり、中世以来の教会やモスクのほか、歴史的建造物が密集する地区、伝統的な市場といった見どころが点在しています。残念ながら過激派組織ISの支配により、多くは甚大な被害を受けましたが、市場や宗教施設を中心に、少しずつ復興が進められています。

復興作業をする市民と思われる像 (2023年10月)

自主的に修復作業をする人々 (2023年10月)

川沿いには雰囲気の良い喫茶店が並び、夜遅くまで賑わう (2023年10月)

学校帰りと思われる子供達 (2023年10月)

市場

旧市街の入り口には市場が広がります。魚市場には恰幅の良い魚が並び、鯉を背開きにして焼いた名物料理の「マスグーフ」の店が軒を連ねています。魚市場から通りを挟んだ南側のスーク・アルサライには、食料品や衣類といった日用品の店が並びます。過激派組織ISとの戦闘で徹底的に破壊されましたが、優先的に復興が進められ、市民には欠かせない場となっています。

旧市街の入り口に広がる魚市場 (2023年10月)

昼も夜も大勢の買い物客で賑わう (2023年10月)

チグリス川で獲れた大型の淡水魚が多い (2023年10月)

その場でさばいてもらうことも可能 (2023年10月)

生きの良し悪しで魚を仕分けているが、いささか大胆だ (2023年10月)

背開きにした鯉の丸焼き「マスグーフ」はイラクの名物 (2023年10月)

マスグーフは大きくて1人では持て余すが、切り身のフライもあった (2023年10月)

果物を売る露店 (2023年10月)

市場も壊滅したが復興し、市民の生活の場となっている (2023年10月)

伝統的な金物を売る店 (2023年10月)

金物を作る職人 (2023年10月)

金属を鍛える音が聞こえてきた (2023年10月)

市場に面したオスマン帝国時代のモスク (2023年10月)

祈りを捧げる人々 (2023年10月)

ヌーリー・モスク (Nuri Mosque)

旧市街のほぼ中央に残る、12世紀にヌールッディーン・ザンギーの命により建てられたモスクです。50mの傾いたミナレットを擁しており、10000ディナール札にも描かれていましたが、奪還作戦の最中に過激派組織ISにより爆破されました。ユネスコの主導による大規模な修復事業が進められています。

当時のISの指導者バグダディが演説をしたモスク(2023年10月)

50mの傾いたミナレットが特徴的だったが、破壊され修復作業中だ (2023年10月)

ユネスコ主導で大規模な修復作業が行われている (2023年10月)

聖トーマ教会 (Mar Touma Church)

布教活動で東方に赴いた使徒トマスが、途中で拠点としたとされる場所に建つ、シリア正教の教会です。モースルで古い教会の一つで、その起源は6世紀とも7世紀ともいわれます。北側には隣接してシリア・カトリック教会が建てられています。いずれも過激派組織ISとの戦闘で被害を受け、修復作業が進められています。

外観の修復が済んだシリア正教会の入り口 (2023年10月)

修復が済んだシリア・カトリックの教会 (2023年10月)

内部はISにより破壊されたが修復された (2023年10月)

文字の部分は傷つけられ冒涜されている (2023年10月)

無原罪懐胎教会と教会群 (Al-Tahira Church and Churches)

17世紀にはその存在が言及されているシリア・カトリックの教会です。古い教会の上に建て直されており、その基礎部分は7世紀に遡るといわれます。同じ区画内にシリア正教会、アルメニア使徒教会の建物が隣接していますが、いずれも過激派組織ISとの戦闘で被害を受け、修復作業が進められています。

無原罪懐胎教会の歴史は7世紀に遡る説も (2023年10月)

アルメニア使徒教会と思われる建築 (2023年10月)

アルメニア文字の部分はつるはしで破壊されている (2023年10月)

シリア正教会、シリア・カトリック教会、アルメニア使徒教会が隣接する (2023年10月)

聖メスキンタ教会 (Mart Meskinta Church)

ササン朝時代のキリスト教徒迫害の中で殉教した女性にちなんだ教会です。中世には存在していたとされ、オスマン帝国時代にはカルデア・カトリックの総主教座が置かれていた、由緒ある教会です。

住宅地の中ある古い教会 (2023年10月)

歴史地区

市場の北側には歴史的な建造物が並ぶ地区がありますが、ISとの戦闘により徹底的に破壊されました。路地は片付けられ、建物の調査はされていますが、修復作業には時間を要するものと見られます。

裏通りに入ると途端に廃墟になる (2023年10月)

歴史的な建築が多い地区だが、忠実に再現するためか後回しのようだ (2023年10月)

安全の確認が取れた建物には「safe」の文字が書かれている (2023年10月)

壁に描かれている絵 (2023年10月)

瓦礫は片付いているものの内部は手付かずだ (2023年10月)

ユネスコの修復事業の対象となっている (2023年10月)

崩落の可能性がある建物もある (2023年10月)

道から外れると不発弾の撤去が住んでいない場所もある (2023年10月)

モースル・ヘリテイジ資料館 (Mosul Heritage)

伝統建築を模した新築の資料館 (2023年10月)

伝統的な暮らしを再現した展示 (2023年10月)

地下の展示スペース (2023年10月)

イスラム教徒、キリスト教徒、ヤズィーディーが共存するなかでISが現れたことを示す絵(2023年10月)

ヌーリー・モスクのミナレット、アッシュルバニパルの像といった土産物があった (2023年10月)

屋上からはチグリス川や大モスクが見える (2023年10月)

ビートナー資料館 (Bytna)

伝統建築を改装した資料館 (2023年10月)

1階が展示、2階がカフェとなっており、周囲には土産物屋が並ぶ (2023年10月)

展示品は市民から提供されたものだそうだ (2023年10月)

モースルや周辺に暮らすあらゆる民族の伝統衣装 (2023年10月)

実は一人のアッシリア人作家が制作していた (2023年10月)

モースルにゆかりのある人々の肖像 (2023年10月)

吹き抜けから見下ろす (2023年10月)

戦闘で生じた天井の穴 (2023年10月)

ISからの奪還直後は荒れ果てていたようだ (2023年10月)

その他の見どころ

修復が済んだ教会 (2023年10月)

この地域では珍しいラテン・カトリックの教会 (2023年10月)

東岸

ニネヴェ (Nineveh)

アッシリアの都だったニネヴェの城壁には15ほどの門があったとされる (2023年10月)

その1つのアダド門は、イタリアの援助により修復された (2023年10月)

観光名所に限らず、至るところに植樹がされていた (2023年10月)

既に案内板ができており、一般の観光客も入れる (2023年10月)

伝統建築を模したビジターセンター (2023年10月)

アッシリア帝国の版図 (2023年10月)

作業をするのは主に現地の人々だった (2023年10月)

敷地内では遺跡の発掘も同時に進められており、写真の撮影も許可された (2023年10月)

最も有名なネルガル門はISに完全爆破され、スロープの遺構が辛うじて存在を示していた (2023年10月)

階段があり、ニネヴェの敷地と市街地を隔てる丘に登れる (2023年10月)

東向きにあり、太陽を司る神シャマシュの名を冠した門は、ISに破壊されず健在だ (2023年10月)

区画毎に異なる国が請け負っており、マシキ門はアメリカによる修復作業が始まるようだ (2023年10月)

預言者ヨナの墓 (Nabi Younis)

預言者ヨナの墓と呼ばれるモスクもISにより一部が破壊された (2018年12月)

柵越しに覗くことはできるが、この時点では内部は立ち入り禁止だった (2018年12月)

サダム・フセインの失脚後、建設途中のまま放置されている大モスク (2018年12月)

作業が再開され、塗装が始まっていた (2023年10月)

大規模な図書館を擁する名門のモースル大学 (2023年10月)

キャンパス内の建物もメソポタミアの建築様式を踏襲している (2018年12月)

大学周辺の通り (2023年10月)

以前、新市街にはマスグーフの露店があったが、移動したようだった (2018年12月)

写真・文 : 田村 公祐

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