古代末期、ササン朝ペルシャ下のアッシリアの王子と王女、ベーナムとサラを祀った修道院です。
らい病を患う妹のサラを救うため、隠遁者マタイの不思議な力を頼ったベーナムは、妹の病が快癒したことに感謝し、ともにキリスト教へと改宗しました。しかし、父である王は、アッシリアの伝統宗教を捨てたことに激昂し、二人を殺してしまったのです。後に王はそのことを悔い、二人を祀ってこの修道院を作ったと言われています。
当時はネストリウス派の修道院でしたが、時代とともに移り変わり、現在はシリア・カトリックの管理となっています。
過激派組織ISが台頭した際には、この修道院も占拠され、ベーナムとサラの廟は爆破されました。修道院にも爆発物が仕掛けられましたが、奇跡的に不発となり難を逃れました。現在は修復が進み、壁一面の落書きは一掃され、ベーナムとサラの廟も再建されています。
ISから解放されて間もない2017年4月の時点では、付近は緊張に包まれており、住民は戻っていない様子でした。修道院を警備する男性は、空のペットボトルを取り出すと、爆破されたベーナムとサラの廟から粉塵を汲み取り、聖なる砂と言って筆者に渡してくれました。そのペットボトルは、今も弊社で大切に保管しています。
写真・文 : 田村 公祐